たくやかつみの日記

自己顕示欲の廃棄場

「君たちはどう生きるか」を語るか

君たちはどう生きるか


たくやかつみです。
君たちはどう生きるか君たちはどう生きるか

このたび宮﨑駿監督*1最新作の君たちはどう生きるか
やっと見ることができました。

結論から言うとおもしろかったです。おもしろかったんですけど、まあなんといいましょうか。個人的にはおもしろいって結局なんだろうと、創作理論に少し絶望を感じた作品でありました。
興味がわく引きを作ったところで早速解説していきましょう。

ネタバレなしのざっくりな感想

巷ではあれこれ斬新な言い回しが考えられていますが言ってしまえば「サムライ8」タイプです。
他作品を例に挙げるとジブリ不思議の国のアリス
ジブリで例えると荒々しくて率直で未完成な誠司のバイオリンのような作品。

失礼ながら僕の作品でいうと7人の高橋さんみたいな作品でした。

takuya-katumi.hateblo.jp


ただやはりパヤオ自身技量がえぐいので作画演出構成で話はちゃんと成立しているのがおもしろいところ。

ここまで抽象的な表現ばかりであれなので未読勢が気になってそうな要素とその答えを並べてみました。

  • Q:意識高い系?説教系?
    A:どちらでもなかった。王道を往く冒険ファンタジー
  • Q:テーマ、メッセージ性はある?
    A:多すぎてまとまってない。だから意味不明とか言われる
  • Q:ミュージカル系?
    A:途中で踊りだしたり歌い出したりは一切ない。生命賛美も控えめ
  • Q:内容説明できる?
    A:できます
  • Q:起承転結で例えるとどんな感じ?
    A:起承転起承承転転承転結って感じ
  • Q:深い?
    A:いうほど深くない。暗喩を当てはめればいくらでも深く解釈できるタイプ
  • Q:どういう人におすすめ?
    A:一応万人向けだからこれみて気になった人にはとりあえずおすすめ
  • Q:ネタバレ見てもいい?
    A:なしで見たほうがいい。見た後にネタバレを見るまでがセット。
  • Q:作画どんな感じ?かぐや姫みたいな?
    A:風立ちぬみたいな感じ、作画は本当にすごかった
  • Q:鳥は結局なんなの?
    A:わからんけど多分死生の象徴。「火の鳥」から着想を得てると思う

まあこんなもんですかね。

説明するものではないとか意味が分からないとかパヤオ成分100%だとか、事前情報は聞いていたのでてっきりカリオストロ「あなたの心です。」とかナウシカのラストシーンとか千と千尋の手繋ぎながら空中浮遊みたいなメルヘンなシーンをずっと見せられるのかなと思ってましたが全然そんなことなく、話自体はすごいわかりやすかったです。むしろ「あなた○○さんですよね」とか、割と必要以上に台詞で説明してくれるシーンなどが見受けられたので内容はすごくわかりやすいです。わからなくなるのはそこに隠された真意とかを変に探そうとするからかと。せめてタイトルが「炎纏いの姫」とか、「世界の石と不思議な世界」とかなら全然違う評価になっていたと思います。そもそも君たちはどう生きるかってタイトルが万能すぎるんです。
こんなタイトルにされちゃなんだって考察できちゃうじゃないですか。

あとやっぱり伝えたいことや見せたいのであろうことが本当に多すぎて、ここは死後の世界なんだとあからさまに匂わせておきながらいつの間にかおっさんの作り出したマルチバースの世界になっていたり何の説明もなくいないはずのキャラがいたり、現実世界が舞台かと思いきやいきなりパヤオのオナニーワールドに連れていかれたり、そういうまとまってないガバ要素に目をやってしまうと何が言いたいのかわかないとなってしまうというか。むしろ読解力がある人ほど納得いかない作品だったなと思います。かといって展開の盛り上がりも薄いのでミーハーウケも微妙。
じゃあ一体どういう層にウケてるんだという話ですが恐らく逆張り系のパヤオ信者くらいでしょう。そう私です。

ただやっぱり不思議なことにここまで破綻しておきながら話は成立しているのでおもしろいところ。あらゆるところで矛盾しまくってるのに今主人公は何をしているのか、どういう状況なのかは子供でもわかるほどにわかりやすい。実際映画館にいた子供たちはちゃんと驚くべきシーンで驚いてるし笑うべきシーンで笑う。キャラの一人称が変わるみたいな細かい部分にも気付いてたりしたので、この映画を真の意味で理解できたのは子供たちなのかもしれない。よかったな!パヤオ

ここからはネタバレ込みになるので見たくない方は是非後日見てください。

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君たちに「君たちはどう生きるか」をどう語るか


ここからはガッツリネタバレ込みでいきます。
先に言いましたがこの作品は見る人によって色々な解釈ができるタイプの作品であり、それによりいくらでも深酔いし浸ることができます。つまり一度見て、自分のなかの解釈を得たうえでネタバレを見ることで、初めて映画を見たと言えると思います。

というわけでここから実際に内容を掘り下げながら僕なりの解釈を気持ち悪く語っていこうと思います。まだどのネタバレも見ていないので純粋な僕の解釈です。

起・承・転「東京大空襲~義母探しまで」

舞台は昭和の戦争時代。
空襲により母を亡くし、東京に住めなくなった主人公は疎開を余儀なくされます。
疎開先では母の妹であり父の再婚相手でもある義母がいます。義母は既に父の子を身ごもっている様子。節操ないなこの親父。
この時点で戦争という死と隣り合わせの環境と同時に妊婦という生の要素が用意されており、まさに君たちはどう生きるかを説明するのにちょうどいい状態です。
少しわかりにくいですがこの時義母が主人公に無理やりお腹を触らせ、お前の新しい母は私だと言わんばかりに認知させる描写を入れ込むことで、後のシーンの布石も完璧です。

疎開先に出向いた主人公はアオサギに出会います。ポスターに描いてたカヘッカヘって鳴く鳥です。これは僕の考察ですが恐らくこの時点ではこのアオサギは死生の象徴であり、火の鳥をイメージしていると思われます。死の戦争、生の誕生。そして死生を象徴する鳥。もうだいぶどう生きるか説明する気満々ですね。

でまあなんだかんだあり主人公はアオサギをこの世のモノではないということを理解し、鳥から母は生きているからついてこいと告げられます。

でまたなんだかんだあり義母が鳥のいる謎世界に行ってしまったのでそれを追い、アオサギと対峙し、謎のパヤオワールドに移動します。
正直ここら辺はよくわからないです。多分これといった深いメッセージはないと思います。

とりあえずこの時点で伝えたいことは、アオサギはこの世の存在ではない、主人公は義母に心を開いていない、母は本当は生きているらしい。アオサギが案内したのは恐らく死後の世界。ということでしょうか。正確には多分違いますがこのくらい安直でいいでしょう。

起(2)承(2)承(3)転(2)転(4)「キリコ(別世界)と出会い~義母ヒステリーまで」

ここら辺から物語の構造が崩れてきます。

パヤオの不思議世界に降り立った主人公はキリコという女性に出会います。この人は後に判明しますがパヤオの不思議ワールドに一緒に来てしまったお手伝いの婆さんの若い頃の姿。おそらくこの映画で一番人気になるであろうキャラです。*2このことからこの世界では時間の流れが外の世界とはかなり違うのがわかります。ここら辺では上の世界やら、地獄やら、この子たちは空を飛び上に行くことで生まれるとか、死に近い存在とか、やたら死後の世界であると言うことを匂わせる発言、描写が目立ちます。露骨すぎる。まあしかしそんなもの隠しても意味ないですし、この時点では死後の世界ということで間違いなかったのでしょう。んでまあなんだかんだあり、パクパクかなんか名前忘れましたがカービィみたいなかわいらしい生き物が空に飛び立って、上の世界に行くと生まれることができる。みたいなことを説明します。
ここで僕はうまく説明できないのですがこの映画が現時点で何を伝えたいのかなんとなくわかった気がします。

順調に昇っていくカービィたちでしたがここで邪魔が入ります。ペリカン。これまた死生の象徴である鳥です。空を飛べるのに上の世界へは行けないあたり恐らく地獄に落ちた人間とかでしょうか。ペリカンはぷかぷか浮かぶカービィたちを食い荒らし、生命の誕生を邪魔します。このままでは生命は誕生できません。
そこで現れたのはこれまた名前忘れましたが火の姫かなんか。炎属性の攻撃を使う少女。後に判明しますが主人公の母でした。
母もといおかんは全体攻撃を使いものすごい勢いでペリカンを攻撃していきます。
いくつかカービィにも被弾してしまいますが無事ペリカンを殲滅することができました。

なんとなくなんですけど、ここら辺から物語のテーマというか、軸が大きく変わったような印象でした。正確には、「死生観」から「創作理論」の話になっている感じ。

その関係かここからは結構とばしとばしというか粗っぽい印象で、石が受け入れてくれないとか露骨に石=原石、才能みたいなクリエイター理論が垣間見えるようになってきます。
なんだかんだあり別世界に迷い込んだ義母に再開しますがクソ機嫌が悪い様子。どうやら主人公に煙たがられているのを内心勘づいていたようで「あんたなんか大嫌いだ!」みたいな感じでヒステリーを起こします。しかし主人公がそんな義母の心境を察して和解することでとりあえずこの問題はおしまい。ここからはガチでテーマが変わって死生観から創作論の話になります。

承(4)「世界の主に会って継承うんぬんするシーン」

唐突に現れいつの間にかこの不思議世界を支配していることになっていたインコたちに囚われた主人公はなんだかんだありこの世界の主に出会います。主の正体は説明し忘れてましたが行方不明であった主人公の大叔父にあたる人物でした。もうこの時点でこの世界は死後の世界でもなんでもないことがわかります。さっきの設定は忘れましょう。この世界は大叔父の作り出したマルチバースです。

一方インコの王は母が禁忌を犯した*3として主に母の処刑を許可してもらうよう交渉に向かいます。抑止力である火の姫である母がいなくなれば、晴れてこの世界はインコのものとなる(?)っぽいです。個人的にこのインコの王のアニメーションはとてもおもしろくてすきです。

話を戻して、主は積み木を組み立て、この世界を保っています。崩れてしまえばそれは世界の崩壊を意味します。世界はもう1日もつかどうかのレベルらしいです。

これはもうそのまんまですね。物語ドミノ理論です。僕がけいおんの考察でも言っていたやつですね。

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この世界は物語であり、色々な設定を盛りまくった結果、積み木は今にも崩れそうで破綻寸前です。そこで主は一度物語をリセットするため、主人公にこの世界の主を継いでほしいと頼みます。これはそのまんま、師弟関係を言っているのがわかります。

転(5)結「世界崩壊~ラスト」

最終的に主人公はこの世界を継がず元の世界に戻ることを選択します。つまり自分のやり方で生きていくということを選択するわけです。でましたね。君たちはどう生きるか。なんだかんだありインコの王が「悪意に染まっていない石」をめちゃくちゃに積み上げた結果、当然のごとく積み木は崩壊。世界は崩壊します。
穢れなきクリエイターが理解のない第三者により好き勝手される。わかりやすいですねえ。

崩壊する世界から脱出するため主人公たちはもとの世界に戻ります。これまた説明していませんでしたが先ほどは世界の境界線?みたいな、様々な世界とつながっているような役割をしていた扉が、時間軸の扉に設定変更されていたりとこのあたりは割とめちゃくちゃです。なんの説明もなくキリコが母と同じ時間軸に帰ったり。

従来のジブリならこのちゃんと戻れたやったーで久石譲氏の壮大なBGMを流して気持ちよく終わるのですがそこはパヤオ原液。
いきなり2年ほど飛んで主人公が東京へ帰るところで物語はしっとりと幕を閉じます。まあこれもつまりそのまんま君たちはどう生きるかということなのでしょう。どう生きたかじゃなくてどう生きるかだから奇麗に終わらせなかったというか……わかりにくいか。

何がしたかったのか


結局パヤオは何がしたかったのでしょうか。

君たちはどう生きるか」伝えたかったわけです。

しかしテーマがあまりにも肥大であったため、伝えることがまとまらなかったわけですね。まさに金のかかった自主制作映画。
多分本人の中では決まってたんだと思います。それが何かはいくらでも解釈できますが、本当のことは本人にしかわかりません。それが戦争やら死の世界やらを経て、最終的には積み木のくだりに繋がるわけです。
この積み木のくだりが本当にずるくて、好きな物に置き換えると何にだって捉えられるわけです。単純に人生に置き換えてみてもいいですし、作家なら作品。そのまんま世界を保っている積み木と捉えてもある程度理解できます。石はその人の経験やアイデア。まあこれも見る人によってとらえ方が違うでしょう。

君たちはどう生きるかを伝えるため、パヤオは自分の中の「生きる」ということを必死にひりだしたのだと思います。最初は戦争や死後の世界など、「見えやすい形」で出そうとしましたが、話が進むにつれて物語はパヤオ自身の内面、核心に迫っていきます。個人の核に外野が入り込めるわけがありません。だから意味が分からないのです。
しかし、長い年月四苦八苦しながら大御所に登り詰めた天才が見せる内面には、おのずと価値を見出してしまいます。まさにパヤオだからこそ許された作品。僕が全く同じ作品を作っても、恐らく許してもらえないどころか見てもらえないでしょう。

視聴者には大きく分けて整合性を求めるタイプ盛り上がりを求めるタイプに分けられます。前者が絶賛する作品はやっぱり進撃の巨人」や「ハンターハンター。後者はドラゴンボール」や「ワンピース」。
どうです?前者の作品が好きな人は後者が微妙に感じるはずですし、後者の人は逆じゃないですか?ちなみに僕は後者派です。まあ今までの発言を見てるとわかりますよね。

君たちはどう生きるかがどちらのタイプかと言われるとこれがわからない。多分後者ではあるんですが、いうほど盛り上がりがあるわけでもなく。整合性はもちろん破綻していますし。
ただよくよく見てみると内容は今までのパヤオ作品と変わらなくて、まあおもしろいんですよ。最初の方で言ったナウシカのラストシーンとか千と千尋の手繋ぎながら空飛ぶシーンとか、ザ・ジブリって感じのシーンが本当に少ない。*4ただ説明しにくいのですがパヤオっぽさは本当にすごくて、特に前半のアオサギに死後の世界に誘われるくだりはマジでパヤオだああああってなってちょっと感動しました。パヤオが帰ってきた!パヤオが帰ってきた!ってなりました。あそこが一番すきまであるかもしれない。

話が脱線しましたが本当にザ・ジブリって感じの楽しいシーンがないんです。楽しいシーンがないから盛り上がりが好きな層を騙すことすらできない。でもなぜか見てられる。本当に内容だけ見ると今までのパヤオ作品と何も変わらないです。ただひたすらに盛り上がりがないというか。壮大さに欠ける。まさにすっぴん状態。

では今まで我々がおもしろいと思ってみていたジブリ作品とはなんだったのか。おもしろいとは何だったのか。人間は何をもっておもしろいと感じるのか。
最初の方でも言いましたが、この作品を通して僕はおもしろいというのが何なのかよくわからなくなってしまいました。

個人的にこれは行きつくとこまで行ったクリエイターのジジイが初心に帰って、創作の根底的概念を探した結果だと感じました。

もう自分でも何いてるかわからんくなってきた。
この作品は混沌です。

*1:実は今作から崎の字を変えたらしい。めんどくさいので以後パヤオ表記

*2:パヤオキャラでは非常に珍しく貧乳。あの爺さんは巨乳は女。母性の象徴として描くことが多いので多分意図的にそういうのないんだぞってのを伝えたかったんかなと思う知らんけど

*3:多分死の世界で生命を生み出す行為がなんかまずいのかなと、義母はこの謎世界で子供を産むつもりでした。多分設定は考えられてたけどもうこの時点でやりたいことが変わってるのでこの設定は無視していいでしょう

*4:ちなみにナウシカジブリ制作ではない